「地球はとっても丸い」プロジェクトの面々が心を込めてお届けしたエッセイです。
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第21話 遠すぎた橋を眺めながら 
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    リレー連載『地球丸寄港』
    文・写真:澤野 禮子/(オランダ ネイメーヘン在住)

    ワール橋


     オランダに遊びに来た日本人の友人と、何年ぶりかで再会すると、必ずお決まりの質問をされることになる。

    「何で、オランダなの?」

    「……」

     何で?と言われても返答に困るのだが、なぜだかどうして、オランダに来てしまったのだから仕方がない。手っ取り早く言えば、配偶者が現地人だった偶然から永住することになったのである。

     最初に住むことになった場所は、その配偶者の出身地・ネイメーヘンという東南部の小さな町であった。ここは、ドイツ国境まで5キロの場所にあり、内地にある町とは趣を全く趣を異にするのが特徴だ。町の中心から見て東側には、ライン河として流れてきた大河が、ワール河とその名を変え、ゆったりと大きな身を横たえている。この河の源流はスイスで、ドイツに入ってからライン河となり、ネイメーヘンに流れてワール河になり、南部オランダまでうねうねと続き、最終的にはマース河となって、大河に変貌する出世河だ。

    カフェ

     ネイメーヘンは、カフェの多い町として知られているが、その理由は、歩くことに関連しているのだそうだ。オランダには、坂のない町が多いのだが、このネイメーヘンは別で、50mほどの坂が2ヶ所ある。この坂に沿って個性的な店が軒を連ねているのだが、坂を上がり下りしながら歩く人々にちょっとした休息所を提供しようとする意向から、昔から多くのカフェが作られた。その昔、とは、いつ頃を指すのだろうか?それは、12世紀のことだそうだ。町で最も古いといわれる、セント・ヤン・カフェに至っては、1196年創業で、オランダでも最古のカフェとして有名である。

    花や

     更にこの町は、花屋が多いことでも著名である。オランダでは花はインテリアの一部であり、家具と同じように常にそこにあるものとされているが、それを象徴するかのように花とインテリアを組み合わせて販売している店が多い。花と家具を見事に調和させたウィンドーを眺めていると、いかに花が愛されているかがよくわかる気がする。

     オランダの特産物チーズを売る店も、ここネイメーヘンには充実している。オリジナルのチーズや、完全オーガニック物だけを販売する店など、専門店で販売されているチーズの味は格別である。特に、厳選された牧草のみを食べている牛のミルクから手作りされるチーズだけあって、味に深みが感じられる。このネイメーヘンだが、オランダ一古い都市としての異名を取っていることでも有名だ。

    ネイメーヘン

     最も古い町というタイトルは、実際、古文書などにも記されているために得た栄冠だが、それを証明するものが、町のあちこちで発見できるのも興味深いその一つ。古代ローマ人が設立した城跡は現在まで保存されており、人々が訪れる公園のモニュメントとなっている。古代ローマ時代に遡る建築物の片鱗は、博物館の中だけではなく、数多くが町角に残っている。11世紀、この町を造るため、土木事業に参加する者たちを泊まらせるのに建築された塔はそっくりそのままの姿で、今では博物館として当時の様子を訪問者に伝えてくれる。

     歴史の古いこの町で、忘れてはならないのが、第2次世界大戦である。今は隣国としてごく普通の間柄にある独蘭両国だが、戦時中は宿敵同士であり、その国境の町が戦火の渦中にあったのは紛れもない事実だ。この町も、本来ならば独軍によって爆破される予定だったのだ。ところが、地下反戦運動家ファン・ホーフが、独軍の仕掛けた導火線を1人で断ち切り、町を救ったのだった。映画「遠すぎた橋」を覚えておられるだろうか。あのシーンに登場する美しい町こそが、ネイメーヘンなのである。歴史を日々、肌で感じながら、偶然この町にやってきた幸運をかみしめる私は、今日も町のシンボルであるワール橋を渡りながら、家路についた。

    ≪澤野 禮子・プロフィール≫
    フリーライター。オランダにやって来て以来15年間、ただの一度も日本が恋しくならず、里帰りはゼロ。親に呆れかえられたほどのオランダ好きで、現在は、オランダ語と日本語の同時通訳の訓練中。
    | 『地球丸寄港』/メンバーによるリレー連載 | 21:31 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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