「地球はとっても丸い」プロジェクトの面々が心を込めてお届けしたエッセイです。
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第22話 ブラジル人とアイデンティティー
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    リレー連載『地球丸寄港』
    文・写真:高橋直子/(ブラジル・リオデジャネイロ在住)
    ジルベルト・ジルとマリーザ・モンチ
    ブラジルはMPBという音楽分野を独自に発展させてきた。
    ロック、ボサノバ、黒人音楽など、伝統的な
    音楽リズムと現代的な音楽をうまく融合させた。
    写真はジルベルト・ジルとマリーザ・モンチ


     民族アイデンティティーは、特に生まれ育った土地を離れたものにとっては、表面化しやすい問題である。私の場合は日本に20年以上住み、その恩恵を受けてきたからこそ、こだわって「日本人である」といいたい。日本という土地に生まれ、育った環境に影響を受けた人間という意味で、「日本人」という単語を使いたいと思っている。ブラジルに居住して10年。ブラジル人になったわけではなく、私は「ブラジルに住んでいる日本人である」のだ。

     ブラジルは移民国家である。先住民、ヨーロッパ人、アフリカ人、アラブ人、アジア人が交じり合って生活している。多民族国家だからこそ、そのルーツを大切にするが、長い月日の中、ルーツが交じり合っているのも事実である。だからこそ、ブラジル人は、共通の価値観、信念に基づく行動で定義づける、個人の根源的なアイデンティティーを求めるように思う。「民族の血」ではなく、他者や共同体との関係の中で持つ自意識を、アイデンティティーとして模索するのだ。
    ルラ大統領

     我々は誰で、どのようで、どうしてなのか。ブラジルのルラ大統領は、興味深い例である。東北地方の貧しい農民の一家に生まれ、都市に移り住んだ後も貧しい暮らしを続け、軍事政権下の労働組合活動を経て、左翼政権の大統領になった。涙もろく、東北地方の方言で演説するおちゃめなおじさんでもある。ワールドカップの試合は、ブラジルユニフォームを着て応援し、リオのカーニバル会場にも登場する。大統領官邸でシュラスコ(ブラジル風焼肉)を楽しみ、上半身裸で友人とサッカーに夢中になる。

     これはルラ大統領がブラジル人向けの宣伝用にする行動ではない。人々の間で築かれてきたルラ大統領の、ブラジル人らしき歴史と習慣である。サッカー、カーニバル好きだけでなく、大げさな話し方、親しみやすさ。音楽、踊りと議論が大好きで、ゆったりとした時の流れを好み、違いを受け入れる寛容さを持ち合わせる。こういった一般的に知られているブラジル人のアイデンティティーは、その気候、宗教、生活などの中で形作られ、受け継がれていく。各個人のアイデンティティーが確立している中での、ブラジルの民族・文化アイデンティティーなのだ。

     そして、そのアイデンティティーは過去だけでなく、未来へも繋がっている。ルラ大統領は、その風貌からおそらく白人、黒人、インディジナ(先住民)の血が混じっているだろうといわれているが、イタリア系ブラジル人と結婚している。サッカーやカーニバルでいえば、熱狂する人々が多い一方、避けて通るブラジル人が多いのも事実だ。過去から未来へ、人々から人々へとアイデンティティーは伝えられ、変化していく。
    白人の母親と黒人の父親を持つ子ども
    白人の母親と黒人の父親を持つ子ども

    「ブラジルに10年住んでいる」というと、「じゃあ、もうブラジル人だね。」とよく言われる。ここでいう「ブラジル人」とは「血」の意味ではない。ブラジル人というアイデンティティーが、行動と態度に基づいていることを、多くのブラジル人は知っている。そして「じゃあ、私と一緒だね。」という。まるで「ブラジル人になりたかったらなってもいい」といっているようだ。そして私はありがとうと前置きして強調する。「でも私は日本人」だと。国籍にではなく、行動と態度にこだわりたい。そして日本人としての自分のアイデンティティーを、模索し続け、変化に対応できる勇気と柔軟性を持ちたいと思う。

    ≪高橋直子(たかはしなおこ)/プロフィール≫
    ブラジル在住10年目のフォトグラファー&ライター。若い情熱に惑わされてブラジルにはまり、まいた種が芽を出してはや6年。わんぱくに成長したわが子に、 読み聞かせ絵本のポルトガル語を直される毎日。ビールを片手に夜の街に出没し、サンバのステップに足を絡ませる日々を過ごす。ブラジルをあそぶブログ


    | 『地球丸寄港』/メンバーによるリレー連載 | 05:37 | comments(0) | trackbacks(1) | - | - |









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