「地球はとっても丸い」プロジェクトの面々が心を込めてお届けしたエッセイです。
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第1回 ロミタ・影の大黒柱?(前編)
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    不定期連載 「ナマステ!マサラ香るネパール」
    文:うえのともこ(ネパール・カトマンズ)
    ロミタ

    「ロミター、エーーー?ロミター??」また2階から大家のおばあさんのだみ声が響く。ロミタは12歳、小学5年生の女の子。睫が濃く長く、目鼻立ちがはっきりしていて、左の小鼻に金色の小さなピアスをしている。1年ほど前のある日、バスで半日ほどの村から我が家の2階に住む大家宅へやってきた。村にはお姉さん3人と弟が2 人おり、すぐ下の妹はカトマンドゥの隣の市に預けられ、ロミタ同様お手伝いとして暮らしているそうだ。

     この家での彼女の役割は、毎朝の玄関先の掃き掃除、我が家との共同部分にあたる階段の拭き掃除、ミルクや野菜などのちょっとしたお使い、食器洗い、犬の餌やり、庭の草取り、ゴミ捨て、時に洗濯までも。普通の家庭の主婦がする家事全般である。洗濯はもちろん手洗いで、固形の石鹸を衣服に塗り付けしっかりと泡立てて、洗濯ブラシでシャッシャッとこすって、すすいで干すというたいへんな重労働だ。洗濯をする通いのお手伝いがやってくることもあるが、重労働な上、やり方に大家の細かい指図が入るからか、どうも入れ替わりが激しく、欠員時にはロミタが担当している。

     朝8時に屋上に上がってみると、縦横に張られた洗濯紐にはすでに、洗いあがった洗濯物が揺れていた。大物のシーツやカーテン、ロミタ自身の衣類もレンガの塀の上に並べて掛けてあった。

     大人のわたしですら家族の洗濯物を手洗いでこなすのは厳しすぎて、お手伝いに委ねているというのに。5人家族の洗濯物は子どもに任せるべきお手伝いの範疇なのか?と大家の常識を疑ってしまう。

     朝の仕事を終えたら、9時半ごろにはソーダの空ペットボトルに水を入れ、ステンレスのお弁当箱ををぶら下げてロミタは足早に登校していく。

    「アンティ(おばちゃん・筆者のこと)、わたし行ってくるね」と。

     カトマンドズの同じエリアで3回住むところを変えたけれど、その3軒すべてにロミタのような小学生のお手伝いが居た。それぞれ家庭の事情があってやってきたのであろう。彼らは住居、食事、教育を提供されながら、使用人として一人前の仕事をする。学校と家の仕事以外は、友達と遊んだり、どこかへ出かけたりということはまずない。年に1、2回お祭りシーズンの休みに、数日だけ実家に帰っているだけのようだ。

     大家の若夫婦は共働きで、中学生の一人息子はいわゆるエリート校に通っている。日中家には足が弱り杖が必要なおじいさんと、姿勢よくサリーを着こなす矍鑠(かくしゃく)としたおばあさんだけになる。このおばあさんがロミタの教育指導係といおうか、その都度やるべきことを指令する人だ。しかしこの家族一同、すっかりロミタに頼り切っているかのように見える。いや、もはやこの一家、ロミタなしでの暮らしは成り立っていかないのではないだろうか?

     3時ごろ学校から帰宅すると、ロミタは早速通学用の革靴の中に靴下を脱ぎ捨て素足になり、制服を着替える。彼女の服は「クルタ」といわれるものだが、おおよそ子ども用には見えないシックな柄や色合いで丈も長く、奥さんのお下がりのようだ。たまに着ている男の子用のTシャツや、体育着のジャージなどは息子のお下がりに違いない。着替えを済ませると、室内の清掃、井戸の手漕ぎポンプで水を汲み、庭の草木の水遣りに取り掛かる。それから夕飯の野菜の下ごしらえなんかをおばあさんと一緒にしているようだ。

     ある午後、お隣のインド人母娘とバドミントンに興じていたわたしたち親子。久々の運動で息が上がったわたしは、横で見ていたロミタにラケットを渡した。上手にシャトルを打ち返し、ラリーを楽しんでいたところ、またまたおばあさんの声が。「ロミター?さぁこっちにおいで」

     普通の子どもなら「遊びたいから後にしてよ。今やりたくないわ。面倒くさいなぁー」などと口答えすることができるのだろうが、ロミタの立場上それは許されることではない。「ハジュール(はい、わかりました)」とラケットをわたしに返すとすぐにおばあさんの元へ向かった。「今始めたばかりのところなのに、少しくらい遊ぶ時間をくれてもいいじゃないの?」とわたしは心の中でおばあさんに毒づくのだった。

     3月のホーリー(春を祝う水掛けのお祭り)の祝日は、ロミタも朝の仕事をそこそこに、お隣の子どもたちと水の掛け合いを楽しんでいた。「アンティ、どれでもいからバケツを貸して!」何度も水を汲んでは門のほうへ駆けて、喊声を上げながら攻撃を仕掛けていた。

     植木の花が満開になったら「アンティ、この花なんてきれいなの?こっちもほら」と赤と白の小さな花を手のひらに乗せてきたり、強風とともに飴玉くらいの大きさの雹が降ったらば、さっと外に走って「こんな大きいの降ってきたよ。食べる人も居るよね?」数粒拾ってわたしに見せる。まだまだ純粋無垢な少女だ。

     1歳になる息子も体重が10キロにもなって、腕や腰に負担がかかるので、わたしはなるべく抱っこを避けたいと思っているのに、ロミタは子どもを見るなり抱き上げあやし、かわいがってくれる。自分の弟たちをこうやってかわいがってやっていたのだろう。子どもの相手はわたしより上手だから息子も喜ぶ。屋上の洗濯物が乾いたら、もって降りてきてもくれる。共同部分の靴置き場や井戸の周りがきれいなのも彼女のお陰だ。

                       後編に続く

    ≪うえのともこ/プロフィール≫
    ネパールとのお付き合いも10年を超え、時代を逆行するかのようなますますのサバイバルライフにも適応してきている。その点での自己評価はたいへん高い。家電の三種の神器「テレビ、冷蔵庫、洗濯機」(昭和の?ですね)のうち、ネパールで最も普及していないのが洗濯機。ないのが普通。大家の奥さんと「買っちゃおうか?」と思案しているが、この電気&水不足では、単なるでかいオブジェになりかねないと躊躇している。しかし大家には是非とも買っていただきたい。旅行者向けの情報を主に扱ったブログ「ネパール子ちゃんのナマステ!旅案内」も好評発信中!

    | 『ナマステ!マサラ香るネパール』/うえのともこ | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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