「地球はとっても丸い」プロジェクトの面々が心を込めてお届けしたエッセイです。
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第2回 恐ろしや〜のジャカルタ交通事情
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    連載「わが心のインドネシア、かな?」
    文・写真:ワヤコ(東京・日本)


     白と黄緑のツートンカラーの大きくて細長い車体。見覚えのあるこのバスが、辺りの車をけ散らしながらジャカルタの大通りを猛スピードで駆けぬけていくのを見かけた時には、暑さにやられて幻覚でもみているのかと思った。ん? まさか……、あれは、東京で走っているはずのバス。一瞬のできごとにそれ以上は確かめようもなく、一体何だったのだろう、と合点のいかないまま日が過ぎていった。

     ある日、再びこのバスを街角で見かけ、旧式の車体に書かれた「降り口」という文字とマスコットの“みんくる”のステッカーを見て、ようやくナゾはとけた。そうか、やっぱり私が見たのは都営バスだったんだ。日本でお役目を終えた後、インドネシアに渡ってきて、ここで余生を送っていたのね。リタイヤ後も、海を渡って新天地で働くその健気な姿に、同国人として素直に感動した。しかし、外見こそ変わりはないものの、見た瞬間に分かるはずがないほどに、インドネシアで見る都営バスは全くの別人格となっていた。

     「発車します。つり革におつかまりください」というアナウンスと共に、ゆるやかなスピードで交通法規を守りながら東京の街を走行する優等生から、ちょっとばかし身体が大きいことを鼻にかけ、「そこ、どけ〜」とジャカルタで傍若無人な振るまいをする粗野なヤツに変貌していた。“若いころ、ワルさをしていたけど、歳をとってすっかり丸くなった”、というのはよく耳にするが、インドネシアの都営バスに関しては、全くの逆。暑さで、闘争心がかき立てられているのだろうか。いやいや、もしかしたらこの蛮行は都営バスの本意ではないのかもしれない。暖かい南の国で優雅な余生を送りませんか、などと甘い言葉に誘われてインドネシアに来たものの、期待とは裏腹に、老体に鞭を入れられ、「こんなはずじゃなかった。ひぇ〜、やめてくれ〜」と思っているかもしれない。本当のところは分からない。とにかく、日本からやって来たドデカイ白い車体がジャカルタの街中を爆走している、という事実があるのみ。


    凶暴なのはバスだけじゃない。歩道に乗り上げ、ばく進するバイク
    凶暴なのはバスだけじゃない。歩道に乗り上げ、ばく進するバイク

     ジャカルタの運転マナーの悪さはつとに有名らしい。激しい車線変更(もちろんウィンカーを出すなんて奇特な車はまれ)、割り込み、無理な追い越し、かっとびの路肩走行。こんなのは、日常茶飯事。かるい挨拶のようなもの。

     私の最初の運転手だったイドリス君なんかは(誤解のなきよう断っておくと、車しか交通手段のないインドネシアでは、たいていの場合、運転手さんを雇って運転してもらうのが普通なのです)ジャカルタ流の運転マナーに加え、気の短さと、ムラッ気の多さから、隣の車にガンをとばすわ、あおるわ、の強気運転で、後部座席に座っている私は、いつも「ひぃ〜」とか「うぐっ」とか言いながら、足をふんばって耐えていた。そして、半年のうちに接触や追突などの3回ほどの小さな事故を起こしたあげくに、最後は1本道で無理な追い越しをかけて、対向車線から来た車とあわや正面衝突……、しそうになりあわててハンドルを左に切ったところ横の車にドスン。この時は、さすがに身の危険を感じた。その後、周りからの強いすすめもあって、残念ながらイドリス君にはおひきとりいただいた。

     しかし、これとて序の口。野生化した都営バス、無謀な運転の乗用車、これ以上に過激な乗り物がジャカルタにはあるんだな。地下鉄などの大量輸送手段のないジャカルタでは、庶民の足として利用されている通称メトロミニとよばれる小型バスがそれ。都バスの半分くらいの大きさなので小回りが利く一方、乗用車よりはガタイがしっかりしているので、一般道ではもう、向かうところ敵なし。満員の乗客を乗せているのに、ちょっとの車間をみつけてはとりあえず頭をつっこみ、一体、何の意味があるのかというほど車線を変える。それに、急発進、急停車、そして激しくクラクションをならし、前を走っている車を威嚇する。かと思うと、突然、運転席では運転手が乗客と談笑をしながらタバコをふかし始めるもんだから、フラフラとした注意力散漫の走りが始まる。パンを食べながら運転してた、なんていう最悪なのにも出くわしたことがある。

     このバス、停留所も一応あるのだが、手を上げれば、どこからでも乗り降りすることができる。一見便利なようだが、実は、これが最も危ない。というのも、こんな時でもバスは、乗降客のために完全には停車しないのだ。いや、大げさに言っているのではなく本当に。では、どうやって乗り降りするのか……。

     まず、乗客を見つけると、バスは軽くスピードをゆるめる。そして、乗客は、このスピードに合わせるように小走りで飛び乗る。その様子は、はたから見ていると、まるで金魚すくいよろしく乗客すくいといった風情だ。降りる時もこの調子。なので、進行方向である右足(インドネシアは日本と同じ左側通行)から先に降りると、勢いあまってつんのめってしまう。そのため、「ダリ カキ キリ(左足から降りる)」といったメトロミニ利用者なら知らぬ者はいない、独特の作法がある。しかし、何かの拍子でステップに足をかけそこなうと、バランスを崩し道路で転倒して、後ろから来た車にはねられそうになる、なんて悲惨なことが待ち受けている。まさに、走る凶器なのだ。

     私なんかは、走行中にメトロミニが近寄ってくると、ぶつかりはしないか、落ちてきた人を轢いてしまわないかと、怖くって身構えてしまう。ところが、ある日、この走る凶器のあまりにも拍子抜けするような姿を目撃した。

     陽もかたむき始め、そろそろ夕方の混雑が始まるいつもの道。けたたましいクラクションをかき鳴らしながら後方から爆走していくメトロミニ。黒々とした排気ガスだけを残し、あっという間に私の車を追い越して視界から消えていった。まあ、ここまではよくあること。

     しかし、その後、しばらく走ったところにあるガソリンスタンドの光景に私の目は釘付けになった。なんとあろうことか、さっきすごい勢いで走り去って行ったあのメトロミニが、そのガソリンスタンドに停まっているではないか。そしてさらに驚いたことに、乗客を乗せたまま給油をしている。もしかして、あんなに急いで走り去って行った理由は、これ? 走る前に給油ってしておくもんなんじゃないの? それに、急いで走ったってガソリンの減り具合は変わらないはずじゃないの?

     これじゃまるで、おしっこをもらしそうだから家にあわてて走って帰っていく小学生じゃないのさ。よく見るとメトロミニの顔は、トイレに腰掛け用をすませた後のほっとした表情そのもの。というのは、ちょっと言いすぎかしら。

     いや〜、まったく脱力してしまいました。みなさんにも、このメトロミニのほっとした表情、お見せしたかったです。


    ≪ワヤコ/プロフィール≫
    約3年間のインドネシア・ジャカルタ生活を終え、6月下旬に日本に帰国。東京在住。インドネシアでは、大好きなインテリア・雑貨店をおとずれそのセンスのよさに驚愕する毎日を送る。現在、インドネシアと日本のインテリア・アートなどを紹介する記事をブログで更新中。 ブログIndonesia Arts&Living
    | 『わが心のインドネシア、かな?』/ワヤコ | 00:00 | comments(1) | trackbacks(0) | - | - |
    ワヤコさんのブログが素敵だったのでこちらにもお邪魔させていただきました。

    ジャカルタの交通事情すごいですよね〜。わが友(インドネシアン・インドネシアン)もご他聞にもれず、女伊達らに片手にタバコ、携帯を頭をかしげてはさみながら、マニュアル車を片手運転して空港から送ってくれました!
    でも、彼女 シンガポールに来ると怖くて運転できないって言うんですよ。
    こういうところがインドネシアの大好きなところです。
    | シンガ | 2008/03/17 2:41 PM |









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